【AID当事者支援会】

出自を知る権利について

1) 「出自を知る権利」とは
出自を知る権利とは「自分がどのようにして 生まれたのか」そして「自分の遺伝的ルーツは どこにあるのか」を知る権利のことです。具体的には、第三者の精子・卵子等を用いる生殖補助医療によって生まれた子が、自分の遺伝的ルーツであるドナーについて知る権利です。

 

具体的には
・ドナーの趣味や特技を知ることにより、ドナーの人物像が想像できるとよい。
・病歴が知りたい。
・身長体重や顔写真がほしい。
・氏名や住所を知りたい。 などです。

 

出自を知る権利といっても、人によって欲しい情報の中身は様々でしょうから、子供の知りたいという思いとドナーのここまでは開示しても良いと思える範囲を両サイドから考えていく必要があります。
 また、この権利は、まず親が子供に精子提供・卵子提供で生まれた事実を告知しなければ行使することが出来ません。そういった意味では告知も出自を知る権利の一部と言えるでしょう。
2) 「出自を知る権利」はなぜ必要か
日本において、告知を受けずに育ったAID児が予期せぬタイミングで自分がAIDで産まれたことを知ってしまい、自分の信じていた出生がガラガラと崩れ落ち、アイデンティティを失ってしまったという声が複数上がりました。(後述のアイデンティティ・クライシス」に繋がります」)
そういった場合、自分の出生のルーツとなるドナーについて知ることにより、その崩れたアイデンティティを立て直したいと感じるそうです。

告知を受けて育ったAID児の場合は、アイデンティティ・クライシスを起こすことはまずないでしょうし、将来ドナーについて知りたいと切望するケースはそんなに多くないとの報告も海外からありますが、ドナーについて知りたいと切望するケースもあるとのことです。

いずれにしろ、精子提供や卵子提供で産まれた子どもたちの中に、将来ドナーについて知りたいと願う子供が少しでもいるのであれば、【出自を知る権利】は保証されるべきではないでしょうか。
ドナーの情報を知りたいか否かは将来子どもたちが判断すれば良いのですから。
3) 「出自を知る権利」を取り巻く出来事
  • 2000年代に入り、告知を受けず育ち、成人してから何らかの原因により出自について知ったAID児達の中から、アイデンティティに深い悩みを抱えるケース(自分の今まで信じてきた出自が嘘だと知り、自分のアイデンティティが崩れ落ちてしまう)を訴える声が上がりました。
彼らを中心に「出自を知る権利」を保障すべきという声があがり、議論が盛んとなったのです。それと同時にAID児の為には告知をしたほうが良いという考え方も国内で広がり始めます。

  • 2003年、厚生科学審議会生殖補助医療部会も、出自を知る権利を保障することが必要であるとの結論に達しました。
  • 2017年 それを受け慶應義塾病院は、ドナーに対して、「出自を知る権利」が法律で保障されるようになった場合にはAID児にドナー情報が開示される可能性があることを予め説明するようになります。

その結果ドナーが激減します。

  • 2018年8月、日本のAIDの約半数を担当していた慶應義塾病院が、AB型のドナーの精子が不足したことを理由に新規受け入れを停止しました。

これにより国内での従来の精子提供による治療は困難を極め、更に国内のAIDの妊娠率の低さも相まって、AID希望者はの中には、SNSなどでの個人間精子提供・精子バンク利用・海外での精子提供が増えて今日に至ります。

4) 出自を知る権利」を認めるにあたっての問題点

では、なぜこれほどまでに「出自を知る権利」を認めるべきだと声が上がっているのにも関わらず、認められないのでしょうか。

出自を知る権利を認めることによる一番の懸念はドナー不足の加速です。
出自を知る権利が認められることにより身元が知られれば、ドナーとしては懸念事
項が増えることにも繋がるからです。
2020年に可決した法案によって、妻が精子提供で出生した場合、その夫が法律上も子供の父親であると認められました。ただ、父親の認知拒否や離婚などで状況が変わった場合にドナーに養育義務などが生じるリスクも完全に0ではない現状のようです。
又、今後事実婚なども認められるようになった場合には、今の法制度のままであるとドナーと子供の間に法律上の親子関係が発生するリスクもあります。

 

出自を知る権利を認めつつも、ドナーのプライバシーや権利を守ることを考えていかねばなりません。
 
そのためにはドナーと子どもの間に親子関係がないとする法整備も必要です。

 

出自を知る権利として本当に子どもが必要とする情報は何なのかを考えつつ、同時に、開示をしてもドナーのプライバシーや権利が守られる範囲はどの程度なのかも考える。
そういった両サイドからの視点で出自を知る権利を考えることも大切でしょう。

 

また、出自を知る権利を子供達が享受するには、まず親が日本の法律の元で治療を行い告知をする必要があります。
そのためにもドナー不足の解消や体外受精の許可による妊娠率の向上、更には告知等についての親に向けてのカウンセリングの普及は非常に重要な今後の課題だと言えるのではないでしょうか。

精子提供や卵子提供で産まれてくる子どもたちの権利のためにも、又ドナー不足により日本で精子提供や卵子提供の道が閉ざされてしまうのを防ぐためにも、当事者として、【ドナー関連の法律整備】と【出自を知る権利】を認められるよう、声をあげていく必要性を感じています。